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静岡地方裁判所 昭和56年(行ウ)12号 判決

静岡県浜松市有玉南町一八六七番地

原告

株式会社毎日観光

右代表者代表取締役

朴在春

右訴訟代理人弁護士

鈴木俊二

静岡県浜松市元目町三七番地の一

被告

浜松税務署長

福沢千秋

右指定代理人

細井淳久

屋敷一男

藤井光二

森裕義

小林茂吉

宮嶋洋治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告の昭和四九年から昭和五三年の各年五月一日から翌年四月三〇日までの各事業年度の法人税につき、昭和五五年六月三〇日付でした別表処分欄記載の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち別表取消欄記載部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四九年から昭和五三年の各五月一日からの翌年四月三〇日までの各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)の法人税につき別表申告欄記載のとおり確定又は修正申告(ただし、後記のとおり昭和四九年及び五〇年の各五月一日から翌年四月三〇日までの各事業年度の各建物減価償却超過額金二七万九七六五円及び金二六万四〇九八円をそれぞれ繰越欠損金として過大に算入したので、別表申告欄記載の本件各事業年度における翌期繰越欠損金額は順次金一億六〇〇〇万九九二七円、金一億五五七〇万二四三三円、金一億二四二六万一八二八円、金四九四六万三三八七円とし、昭和五三年五月一日から昭和五四年四月三〇日までの事業年度における所得金額は金四八九万二四〇七円、納付すべき税額は金一三一万六二〇〇円とするのが正しく、原告は右の限度で過少申告をしたものである。)をしたところ、被告は昭和五五年六月三〇日付で別表処分欄記載のとおり更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下併せて「本件処分」という。)をした。

2  原告は、本件処分のうち別表取消欄記載部分について、昭和五五年七月二二日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、昭和五六年五月一日付で請求棄却の裁決を受けた。

3  しかしながら、本件処分は、金三六一五万五〇七七円の土地受贈益があるとし右金額を益金に加算し、原告の所得金額、法人税額を過大に認定し、かつ、翌期繰越欠損金額を過少に認定した点において違法である。

よって、本件処分中別表取消欄部分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の事実は認めるが、同3の主張は争う。

三  被告の主張

1(一)  原告は昭和四九年八月一日片桐寛、尾関登己之助及び宋永鐘(以下「片桐ら三名」という。)から、それぞれ別紙物目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)の持分(片桐の持分五一万分の九万〇〇三八、尾関の持分五一万分の五万五四〇八、宋の持分五一万分の二七万三五七七合計五一万分の四一万九〇二三以下「本件持分」という。)の贈与を受け、その旨の持分移転登記を経由したが、右贈与にあたり原告が片桐ら三名から同人らが本件土地の旧所有者に対し支払うべき未払代金債務金一六〇七万一八二五円を引受け同年一〇月三〇日総勘定元帳の土地勘定及び未払金勘定に本件持分の取得価額として右金額を計上しているので、本件持分を金一六〇七万一八二五円で譲受けたものと認められる。

(二)  本件持分の譲受当時の更地価額は金九三一七万八一四四円である。すなわち、本件土地は静岡県浜松市北部の市街化調整区域内に所在し、その西側が国道一五二号線バイパス道路に面し、右道路を挟んでほぼ真向いには農業協同組合の建物や自動車展示場があって、右建物敷地及び展示場用地は別紙のとおりいずれも昭和四九年一二月一日から昭和五一年三月一〇日までの間に取引されたもので、その売買価額に売買にあたって購入申込をしたという取引事情を勘案した事情補正率及び右土地の売買時期を本件持分の譲受当時に修正するための時点修正率を乗じて得た比準価額の平均は別紙のとおり一平方メートル当たり金二万二二三七円であるから、本件持分(四一九〇・二三平方メートル)の更地価額は金九三一七万一四四円である。

(三)  しかして、本件土地上には原告所有の別紙物件目録(二)記載の堅固建物が存在するので、地上権又は賃借権の設定はなく、権利金、地代等の授受もなされていないけれども、借地権に類する価額として本件土地の更地価額の一〇ないし二五パーセントが見込まれるから、右価額を最大二五パーセントとみて、その相当価額を前記本件持分の更地価額から控除すると、本件持分の譲受当時における適正価額は金六九八八万三六〇八円とする。

(四)  そうすると、少なくとも本件持分の適正価額と原告が本件持分の取得価額として計上した金一六〇七万一八二五円との差額金五三八一万一七八三円は法人税法二二条二項所定の収益の額に該当するから、受贈益として昭和四九年五月一日から昭和五〇年四月三〇日までの事業年度の益金に計上すべきものである。したがって、被告が受贈益計上もれとして、右差額分を下回る金三六一五万五〇七七円を右事業年度の益金に加算したことは適法といわねばならない。

2  本件持分の譲渡当時における適正価額に基づいた土地受贈益を前提にすると、原告の本件各事業年度における所得金額、翌期繰越欠損金額及び法人税額は次のとおりであるから、前記のとおり右の土地受贈益を下回る額の受贈益を認定してなされた本件処分は適法である。

(一) 昭和四九年五月一日から昭和五〇年四月三〇日までの事業年度

(1) 所得金額 〇円

イ 申告欠損金額 二三八五万六一〇四円

ロ 加算金額 五四〇九万一五四八円

(a) 土地受贈益 五三八一万一七八三円

(b) 建物減価償却費超過額 二七万九七六五円

ハ 前期繰越欠損金額の当期損金入額 三〇二三万五四四四円

(2) 翌期繰越欠損金 一億〇六一九万八一四四円

イ 前期繰越欠損金額(申告分) 一億三六四三万三五八八円

ロ 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 三〇二三万五四四四円

(3) 法人税額 〇円

(二) 昭和五〇年五月一日から昭和五一年四月三〇日までの事業年度

(1) 所得金額 〇円

イ 申告所得金額 四〇四万三三九六円

ロ 加算金額(建物減価償却費超過額) 二六万四〇九八円

ハ 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 四三〇万七四九四円

(2) 翌期繰越欠損金額 一億〇一八九万〇六五〇円

イ 前期繰越欠損金額 一億〇六一九万八一四四円

ロ 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 四三〇万七四九四円

(3) 土地譲渡利益金額(申告分) 五一一万九〇〇〇円

(4) 法人税(申告分) 九四万〇九〇〇円

(三) 昭和五一年五月一日から昭和五二年四月三〇日までの事業年度

(1) 所得金額(申告分) 〇円

イ 申告所得金額 三一四四万〇六〇五円

ロ 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 三一四四万〇六〇五円

(2) 翌期繰越欠損金額 七〇四五万〇〇四五円

イ 前期繰越欠損金額 一億〇一八九万〇六五〇円

ロ 前期繰越欠損金額の当期損金算入金 三一四四万〇六五〇円

(3) 法人税額 〇円

(四) 昭和五二年五月一日から昭和五三年四月三〇日までの事業年度

(1) 所得金額 四三四万八三九六円

イ 申告所得金額 七四七九万八四四一円

ロ 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 七〇四五万〇〇四五円

(2) 翌期繰越欠損金額 〇円

(3) 法人税額 〇円

(五) 昭和五三年五月一日から昭和五四年四月三〇日までの事業年度

(1) 所得金額 五四三五万五七九四円

イ 申告所得金額 四三四万八五四四円

ロ 加算金額(前期繰越欠損金額の当期損金算入額((申告分))否認)

五〇〇〇万七二五〇円

(2) 翌期繰越欠損金額 〇円

(3) 課税留保金額 九六二万二〇〇〇円

(4) 法人税額 二三五五万〇三七六円

ただし、右法人税額は預金等の所得税額金五万三五〇〇円を差引いたものである。

四  被告の主張に対する認否及び原告の反論

1  被告の主張に対する認否

被告の主張1(1)の事実のうち原告が片桐ら三名から本件持分を譲受け、贈与を原因とする持分移転登記を経由し、昭和四九年一〇月三〇日総勘定元帳の土地勘定及び未払金勘定に本件持分の取得価額として金一六〇七万一八二五円を計上したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告は片桐ら三名から本件持分を金七一〇二万六九七六円で譲受け、取得価額として右金額を帳簿に計上すべきところ、経理上の過誤により既払金五四九五万五一五一円を控除した未払分金一六〇七万一八二五円のみを計上したものである。同1(二)ないし(四)の事実及び主張は争う。借地権に類する価額の割合は五〇パーセントとみるべきである。

同2の主張は争う。本件各事業年度における所得金額、翌期繰越欠損金額及び法人税額は次のとおりである。

(一) 昭和四九年五月一日から昭和五〇年四月三〇日までの事業年度

(1) 所得金額 △二三五七万六三三九円

イ 申告欠損金額 二三八五万六一〇四円

ロ 加算金額 二七万九七六五円

(a) 土地受贈益 〇円

(b) 建物減価償却費超過額 二七万九七六五円

ハ 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 〇円

(2) 翌期繰越欠損金額 一億六〇〇〇万九九二七円

イ 前期繰越欠損金額 一億三六四三万三五八八円

ロ 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 〇円

ハ 当期繰越欠損金額 二三五七万六三三九円

(3) 法人税額 〇円

(二) 昭和五〇年五月一日から昭和五一年四月三〇日までの事業年度

(1) 所得年度 〇円

イ 申告所得金額 四〇四万三三九六円

ロ 加算金額(建物減価償却費超過額) 二六万四〇九八円

ハ 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 四三〇万七四九四円

(2) 翌期繰越欠損金額 一億五五七〇万二四三三円

イ 前期繰越欠損金額 一億六〇〇〇万九九二七円

ロ 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 四三〇万七四九四円

(3) 土地譲渡利益金額(申告分) 五一一万九〇〇〇円

(4) 法人税額(申告分) 九四万〇九〇〇円

(三) 昭和五一年五月一日から昭和五二年四月三〇日までの事業年度

(1) 所得金額(申告分) 〇円

イ 申告所得金額 三一四四万〇六〇五円

ロ 前期繰越欠損金額の当期損金入額 三一四四万〇六〇五円

(2) 翌期繰越欠損金額 一億二四二六万一八二八円

イ 前期繰越欠損金額 一億五五七〇万二四三三円

ロ 前期繰越欠損金額の当期損金算入額(申告分) 三一四四万〇六〇五円

(3) 法人税額 〇円

(四) 昭和五二年五月一日から昭和五三年四月三〇日までの事業年度

(1) 所得金額 〇円

イ 申告所得金額 七四七九万八四四一円

ロ 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 七四七九万八四四一円

(2) 翌期繰越欠損金額 四九四六万三三八七円

イ 前期繰越欠損金額 一億二四二六万一八二八円

ロ 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 七四七九万八四四一円

(3) 法人税額 〇円

(五) 昭和五三年五月一日から昭和五四年四月三〇日までの事業年度

(1) 所得金額 四八九万二四〇七円

イ 申告所得金額 五四三五万五七九四円

ロ 加算金額 〇円

ハ 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 四九四六万三三八七円

(2) 翌期繰越欠損金額 〇円

イ 前期繰越欠損金額 四九四六万三三八七円

ロ 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 四九四六万三三八七円

(3) 法人税額 一三一万六二〇〇円

2  原告の反論

(一) 法人税基本通達一三-一-一一(昭和五五年一二月二五日直法二-一五による廃止前のもの)によれば「法人が借地権又は地役権を無償又は不当に低い価額で取得した場合において、その借地権等の価額又はその価額と実際の取得価額との差額のうち贈与を受けたと認められる部分の金額があるときは、その贈与を受けたと認められる部分の金額を支払うこととして未払金に計上し、当該借地権等の帳簿価額の増額を申し出たときは、これを認める。」となっており、法人が所有権を無償又は不当に低い額で取得した場合に借地権又は地役権と異なった取扱いをする合理的な理由はみいだせないから、右基本通達は本件にも適用されるところ、原告は本件処分前の昭和五五年六月二五日損益処分計算書に本件持分の取得価額を金六八五二万六九七六円とし、未払金として金五四九五万五一五一円を計上し、これを添付した昭和五四年五月一日から昭和五五年四月三〇日までの事業年度分確定申告書を被告に提出しているから、右通達に違反してなされた本件処分は違法である。

(二) 仮に、被告主張の土地受贈益があるとしても、原告が片桐ら三名から本件持分を譲受け、その引渡を受けたのは昭和四九年三月二六日で、遅くとも同年四月一五日以前であるところ、本件課税徴収権は昭和四八年五月一日から昭和四九年四月三〇日までの事業年度の法人税の法定納期限の翌日である同年七月一日から五年経過した昭和五四年六月三〇日をもって時効消滅したから、その後になされた本件処分は違法である。

五  原告の反論に対する認否

1  原告の反論(一)は争う。原告主張の基本通達は借地権又は地役権の無償譲渡等について特別に規定したものであり、しかも、法人がその贈与を受けたと認められる部分の金額につき、形式的に未払金として計上するだけではなく贈与者に対し右未払金債務を負担することを要件としているのであって、本件においては、贈与者である片桐ら三名がそのような債権を取得していないのであるから、右通達が適用される余地はない。

2  同(二)は否認する。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、被告が本件各事業年度中昭和四九年五月一日から昭和五〇年四月三〇日までの事業年度分につき金三六一万五〇七七円の土地受贈益を認定して益金に加算し、本件処分をしたことの当否を判断する。

原告が片桐ら三名から本件持分を譲受け、贈与を原因とする持分移転登記を経由し、昭和四九年一〇月三〇日総勘定元帳の土地勘定及び未払金勘定にその取得価額として金一六〇七万一八二五円を計上したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に成立に争いのない甲番二号証、第一六号証乙第一〇ないし第一五号証、第一七ないし第一九号証、第二二号証、原告代表者本人尋問の結果の一部及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、原告役員である朴在春及び片桐ら三名が出資し、体育娯楽遊技場の保守管理等を目的として昭和四六年九月二二日設立された会社で、昭和四七年五月二〇日肩書地にボーリング場を開設したが、ボーリングブームが衰退して営業不振となり銀行などの借入金の返済に窮し、昭和四八年一二月一九日手形不渡を出して事実上倒産したこと、前朴在春ほか三名は原告会社設立にあたり本件土地を購入し出資額に応じた持分を取得したが、原告が倒産するに及び片桐ら三名は原告の事業から退くことになり、原告代表者朴在春と協議した結果、昭和四九年八月一日片桐ら三名が負担していた原告の金融業者等に対する債務の保証を免除してもらう代わりに、同人らが本件土地の旧所有者に対して負担していた本件持分の未払代金債務金一六〇七万一八二五円を原告が引受けることにして、原告に対し本件持分を贈与したこと、原告は同年八月二八日と昭和五〇年三月八日右各贈与を原因として本件持分の移転登記を経由したとこと、その間、原告は昭和四九年一〇月三〇日総勘定元帳の土地勘定及び未払金勘定に本件持分の取得価額として右未払代金額を計上し、以後本件持分の取得価額として右未払金額を計上し、以後本件処分に至るまで五年余の間、右以上の金額を計上せず、昭和五四年五月一日から昭和五五年四月三〇日までの事業年度法人税の確定申告をするに及んで、漸く本件持分の取得価額として金六八五二万六九七六円を計上したことが認められる。

原告は、片桐ら三名から本件持分を金七一〇二万六九七六円で譲受け、取得価額として右金額を計上すべきところ、経理上の過誤により既払金五四九五万五一五一円を控除した未払金一六〇七万一八二五円のみを計上したと主張するけれども、原告が本件持分を金七一〇二万六九七六円で譲受けた事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

右認定事実によれば、原告は昭和四九年八月一日片桐ら三名から本件持分を同人らの前記未払代金債務金一六〇七万一八二五円の負担附で贈与を受け、これを取得したものといえる。

ところで、原告が本件持分の取得価額として右負担金額を総勘定元帳の土地勘定及び未払金勘定に計上していることは前記のとおりであり、本件持分の譲受当時における適正価額が右金額以上であれば、その差額は無償による資産の譲受けとして当該事業年度の益金の額に算入しなければならないことは法人税法二二条二項の規定に照らし明らかである。

そこで、本件持分の譲受当時における適正価額について検討するに、成立に争いのない乙第一、二号証、第四号証、第九号証、第二〇、二一号証、証人本多隆二の証言により真正に成立したものと認められる甲第一七号証のⅧ二(1)及び(3)の記載部分、証人五十嵐文夫の証言とこれにより真正に成立したものと認められる乙第三号証、第五号証、第六、七号証の各一、二、第八、九号証、原告代表者本人尋問の結果によれば、本件土地は静岡県浜松市北部に位置し、国鉄東海道本線浜松駅から北北東方向約五・二キロメートルの市街化調整区域内に所在し、その位置関係、形状は別紙図面のとおりで、西側は国道一五二号線バイパス道路に面した間口約九一メートル、奥行約五六メートルの整形地であって、右道路を挟んでほぼ真向いには自動車展示場及び中央農業協同組合本所が存在すること、右展示場用地及び組合本所敷地の地番、地積は別紙のとおり(展示用地はAないしC、組合本所敷地はDないしH)であって、その位置関係、形状は別紙図面のとおりで、間口いずれも本件土地より狭いけれども奥行はほぼ同じ長さの整形地であること、右各土地は本件土地に近接して所在し、右のとおり間口はいずれも本件土地に比べ狭いけれども利用価値、交換価値にさほどの相違があるとは認め難く、その立地条件、位置関係等からみて右各土地の取引価額を基準にして本件持分の適正価額を求めることが相当と認められるところ、右各土地の売買年月日、売買価額は別紙のとおりであって、別紙のとおり売買にあたって購入申込をしたという取引事情を勘案した事情補正率及び右各土地の取引時を本件持分の譲渡時に修正するため財団法人日本不動産研究所作成にかかる全国市街地価格指数に基づき算出された時点修正率を乗ずると、一平方メートル当たりの更地価額は別紙比準額欄記載のとおりの価額となり、その平均価額は別紙のとおり金二万二二三七円であり、銀行あるいは不動産業者といった土地評価精通者四名の意見による本件土地の持分譲受当時における一平方メートル当たりの更地価額(金二万一五〇〇円ないし金二万三二〇〇円)と大差がなく、右近隣地の平均価額を基準に本件持分の譲受当時における更地価額を求めると金九三一七万八一四四円となること、しかして、本件地上に原告所有の別紙物件目録(二)記載の堅固建物が存在するところ、地上権権や賃借権の設定はなく、権利金及び地代等の授受もなされていないから、原告は本件土地の利用権として使用借権を有するにすぎないこと、右使用借権の価額は前記土地評価精通者四名の意見によると更地価額の一〇ないし二五パーセントと評価されているので、少なくとも二五パーセントを上回るものとは認められないから、本件持分の更地価額から右割合の使用借権の価額を控除すると、本件持分の譲渡当時における適正価額は金六九八八万三六〇八円となることが認められる。

証人本多隆二は本件土地の昭和四九年四月一日当時の慣行的借地権割合が五〇パーセント前後と認められる旨供述し、その旨の調査報告書(甲第一七号証)を作成しているけれども、右供述は本件土地につき借地権の設定がなされていることを前提とするものであるから本件土地の使用借権の価額の割合としてはただちに証拠として採用することはできないし、甲第一号証(ただし、前記記載部分を除く)も同じく採用することはできない。

以上認定の事実によれば、原告は取得価額六九八八万三六〇八円の本件持分を金一六〇七万一八二五円で譲受けたものというべきであって、その差額金五三八一万一七八三円は法人税法二二条二項所定の収益の額に該当するから、受贈益として昭和四九年五月一日から昭和五〇年四月三〇日までの事業年度の益金に計上しなければならないものといわねばならない。

三  原告は法人税基本通達一三-一-一一が本件にも適用されると主張するけれども、右通達は借地権又は地役権の無償譲受等について定めたものであるから本件に適用される余地はない。通達違反をいう原告の主張は理由がない。

次に、原告は課税徴収権の時効消滅を主張するけれども、本件処分にかかわる課税徴収権が発生するのは昭和五三年五月一日から昭和五四年四月三〇日までの事業年度についてのものであって、右年度における課税徴収権の時効は、その法定納期限の翌日である昭和五四年七月一日から進行し、本件処分のなされた昭和五五年六月三〇日時点においてはいまだ五年の時効消滅期間が経過していないから、原告の右主張は失当というべきである。

四  以上によれば、本件持分の取得価額と適正価額との差額金五三八一万一七八三円の範囲内である金三六一五万五〇七七円を受贈益と認定して益金に加算し、本件各事業年度における所得、翌期繰越欠損金額及び法人税額を算出すると次のとおりである。

1  昭和四九年五月一日から昭和五〇年四月三〇日までの事業年度

(一)  所得金額 〇円

(1) 申告欠損金額 二三八五万六一〇四円

(2) 加算金額 三六四三万四八四二円

イ 土地受贈金額 三六一五万五〇七七円

ロ 建物減価償却費超過額 二七万九七六五円

(3) 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 一二五七万八七三八円

(二)  翌期繰越欠損金額 一億二三八五万四八五〇円

(1) 前期繰越欠損金額(申告分) 一億三六四三万三五八八円

(2) 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 一二五七万八七三八円

(三)  法人税額 〇円

2  昭和五〇年五月一日から昭和五一年四月三〇日までの事業年度

(一)  所得金額 〇円

(1) 申告所得金額 四〇四万三三九六円

(2) 加算金額(建物減価償却費超過額) 二六万四〇九八円

(3) 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 四三〇万七四九四円

(二)  翌期繰越欠損金額 一億一九五四万七三五六円

(1) 前期繰越欠損金額 一億二三八五万四八五〇円

(2) 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 四三〇万七四九四円

(三)  土地譲渡利益金額(申告分) 五一一万九〇〇〇円

(四)  法人税額(申告分) 九四万〇九〇〇円

3  昭和五一年五月一日から昭和五二年四月三〇日までの事業年度

(一)  所得金額(申告分) 〇円

(1) 申告所得金額 三一四四万〇六〇五円

(2) 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 三一四四万〇六〇五円

(二)  翌期繰越欠損金額 八八一〇万六七五一円

(1) 前期繰越欠損金額 一億一九五四万七三五六円

(2) 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 一億一九五四万〇六〇五円

(三)  法人税額 〇円

4  昭和五二年五月一日から昭和五三年四月三〇日までの事業年度

(一)  所得金額 〇円

(1) 申告所得金額 七四七九万八四四一円

(2) 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 七四七九万八四四一円

(二)  翌期繰越欠損金額 一三三〇万八三一〇円

(1) 前期繰越欠損金額 八八一〇万六七五一円

(2) 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 七四七九万八四四一円

(三)  法人税額 〇円

5  昭和五三年五月一日から昭和五四年四月三〇日までの事業年度

(一)  所得金額 四一〇四万七四八四円

(1) 申告所得金額 四三四万八五四四円

(2) 加算金額(前期繰越欠損金額の当期損金算入額((申告分))否認) 五〇〇〇万七二五〇円

(3) 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 一三三〇万八三一〇円

(二)  翌期繰越欠損金額 〇円

(1) 前期繰越欠損金額 一三三〇万八三一〇円

(2) 前期繰越欠損金額の当期損金算入額 一三三〇万八三一〇円

(三)  課税留保金額 九六二万二〇〇〇円

(四)  法人税額 一六四八万七五〇〇円

ただし、右法人税額は預貯金等の所得税額金五万三五〇〇円を差引いたものである。

よって、別表処分欄記載のとおりの金額でなした本件更正処分及びこれに伴い別表処分欄記載の金額ででなされた本件過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法であり、原告の本訴請求は理由がないから棄却し、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高瀬秀雄 裁判官 山崎勉 裁判官山本哲一は転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 高瀬秀雄)

別紙

物件目録(一)

一 静岡県浜松市有玉南町字市場一八六二番

宅地 一〇二〇・〇〇平方メートル

一 同所 一八六六番

一〇二〇・〇〇平方メートル

一 同所 一八六七番

一〇二〇・〇〇平方メートル

一 同所 一八六八番

八〇〇・〇〇平方メートル

一 静岡県浜松市有玉南町字市場一八七五番一

宅地 四三八・六五平方メートル

一 同所 一八七五番二

宅地 六五一・三一平方メートル

一 同所 一八七五番三

宅地 一五〇・〇四平方メートル

別紙

物件目録(二)

一 静岡県浜松市有玉南町字市場一八六七番地、一八六二番地、一八六六番地、一八六八番地、一八七五番地

家屋番号 一八六七番

鉄骨鉄筋コンクリート造亜鉛メッキ鋼板茸二階建遊技場事務所

床面積 一階 三〇九五・一六平方メートル

二階 二七一・八四平方メートル

(別表)

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